タイ国際航空 Part 2

Flight Attendant
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タイ国際航空 Part 2 – タイ国際航空のサービス

皆さんはこれまでに、様々な航空会社を利用されたと思います。そのサービス内容に、それぞれの国民性やお国柄がよく反映されていて、面白いですよね。そうした国民性の滲むサービスを受けることも、旅の醍醐味の一つだと思います。

タイ国際航空でタイ人クルーと一緒に仕事をした経験は、その後の私のキャリアだけにとどまらず、人生そのものにも大きな影響を与えています。タイ人クルーは一概に、サービス精神が旺盛で、お客様へのサービスを大いに楽しんでいたように思います。それは、「仕事だから」ではなく、彼らの国民性、自然に湧き上がってくるサービス精神だったと言えるでしょう。タイ人は、自分の両親は勿論、目上の人を敬い、子供達を大変大事にします。日本人が、はるか昔に忘れてしまった純粋さを、いまだに継承している様に見受けられました。タイ人クルーは、そうしたアジア人独特の温かさと微笑みでお客様を機内にお迎えします。民族衣装に身を包み、タイ式の御挨拶(ワイ)をし、タイ料理の機内食でおもてなしします。タイ人の立ち振る舞いは、優雅でゆったりとしていて、お客様は飛行機に乗り込んだ瞬間から、既にタイに第一歩を踏み入れているのです。

作家・森瑤子さんは、エッセイ「プライベート・タイム」にて、”タイ航空のビジネスクラスというのは素晴らしい。まるでホテルのロビーにいるような雰囲気なのだ。片側の窓を全部つぶして壁画など描いているせいかもしれない。座席もファーストクラスと同じでゆったりしているし、タイのスチュワーデスは可愛いし、スチュワードはハンサムだし・・・。” と御紹介下さり、タイ航空のサービスを満喫して下さった御様子。

又、タイ人クルーには個性的なクルーも多く、お客様への対応ぶりも、十人十色。時には、日本の会社では考えられない様な接客ぶりもありましたが、お客様が喜んでいらっしゃれば、パーサーもクルーの個性を尊重し、咎めることはありませんでした。そんな自由でおおらかな雰囲気を贔屓にして下さるタイ航空ファンも沢山いらっしゃると思います。私は今でも、タイ国際航空の客室乗務員として働かせて頂いた事を誇りに思っています。

謝らないタイ人

ところが、フライト中は良い事ばかりではありません。特にバンコクー日本路線では、お客様の約9割が日本人のお客様ですが、当時はそれぞれのフライトに、日本人乗務員は1人か2人しか乗務していませんでした。全て順調に進めば良いのですが、日本人のお客様から特別なリクエストや苦情がある時には、当然私達が呼ばれます。

一番手を焼いたのが、タイ人クルーのプライドです。自分の過ち、非を認めない事で、お客様に一層不愉快な思いをさせてしまう事が多々ありました。大抵の日本人のお客様は、ほんの些細な事であれば、誠実にきちんとお詫びをすれば、理解して下さいます。ところが、タイ人クルーは、それが出来ずに日本人のお客様とのトラブルを更に悪化させた状態で、私達を呼びに来るのです。

あの日も私は日本人のお客様と、タイ人クルーの板挟みに遭い、機内を右往左往させられました。日本人のお客様がご立腹なので行ってみてくれと言うのです。嫌な予感がしました。恐る恐る問題のお客様のところへ伺い、お話を聞いてみると、担当のタイ人クルーが、お客様のジャケットにコーヒーをこぼしたというのです。そこで謝りさえすれば、何の問題もなかったと。ところが、一向に自分の非を認めず、責めれば責めるほど態度を硬化させ、大変不快な思いをしたとおっしゃるのです。私は丁寧にお詫びを申し上げ、ジャケットを拭く為のタオルを取りにギャレーに戻り、必要であれば、パーサーと相談しドライクリーニングの手配もしようとしました。ところが日本人のお客様は、「貴女が悪いのではない、あのタイ人スチュワーデスに直接謝って欲しい」とおっしゃるのです。あくまでも「誠意」を求めていらっしゃるのでした。このお客様のおっしゃる事は当然です。しかし、それはタイ人には到底受け入れられない注文でした。

私はギャレーに戻り、コーヒーをこぼした本人に、お客様の言い分を伝え、直接謝るように勧めました。(たぶん無理だろうとは思いましたが)しかし、彼女は「私はやっていない!」の一点張り。目撃者もいますから、彼女がコーヒーをこぼしたことに間違いありません。それでも一向に自分の非を認めず、逆に今度は「ミホは私の事をかばってくれない。意地悪だ」となり、周りのタイ人クルーも、立場上彼女に同調せねばならない雰囲気になって、私はタイ人クルーを全員敵に回し、日本人のお客様からの苦情処理も押し付けられる羽目になったのです!これはほんの一例ですが、タイ航空在籍中は、こうした不条理な事件に何度も遭遇しました。当時の私はまだまだ未熟で、理不尽な成り行きに腹の虫が治まらず、帰宅するなり日本人の同期や先輩方に電話をかけてはよく愚痴を聞いてもらったものです。

国が違えば、価値観も違う。文化の違いをどうすれば上手く乗り越えていけるのかという課題は、今でも私のチャレンジです。タイ航空のギャレーのカーテンの裏で繰り広げられたドラマも、今となっては懐かしい想い出、良い勉強でした。外資系の航空会社で、外国人のクルーと一緒に仕事をするとなれば、当然、日本人の感覚とはかけ離れた、その国独特の習慣や価値観があります。それが良いか悪いかは別として、ある程度寛容に対応していかなければ、いつまでたっても彼らとは上手くやっていけません。難しいですね。自分の考えと違うものを拒むのではなく、その違いも楽しむくらいの感覚で、柔軟に対応する姿勢が大事だと思います。でも、日本人のお客様のフォローはしっかりと!